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受難とミセレーレ:Rouault 大回顧展 [美術とか]

ネットをあちらこちら彷徨っていて、この展覧会が開催されていることを知りました。

「Rouault 大回顧展」
2008年6月14日~8月17日 開館時間 午前10時~午後5時 入館料 一般1000円
出光美術館 東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階(出光専用エレベーター9階)

Georges Rouault 好きとしては不覚の至りです。
しかも、没後50年で連作油彩画の「受難」と銅版画「ミセレーレ」が数点ではなくて、ありったけ見ることができると聞いては、居ても立ってもいられません。
午後からは、後輩のPC自作のパーツ物色に付き合うため、秋葉の予定ですので、開館と同時に入ることとしました。

今年2つ目のルオー関連の展覧会。
しかし、出光美術館はルオーの作品を400点も所蔵しているのですね。桁が違うな。
その中から今回は初展示(ルオー家との約束で展示できなかったとのこと)を含めて、230点を展示しています。量も質も、ルオーの展覧会でこれだけのものは、もちろんぼくとしては初めてです。

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作品は、年代順に並べられていて、ルオーの作風の変化が良く分かりました。好きだけれど、ルオーのこと良く知っていなかったことを強く認識。

「小さな家族」油彩 1932年 212.3×119.5cm
今回の展覧会で、一番大きな作品です。一目見た途端に目が離せなくなり、少し離れたところからじっくりと話をしてきました(笑)。
ルオーはピエロを数多く描いていますが、どれも悲哀や苦悩が画全体から感じられます。
でも、この画は出番が終わってほっとしているのでしょうか・・・、道化師を描いたものの中では珍しく、家族の団欒が微笑ましく、そして、とても優しさを感じます。束の間の幸福なのかもしれません。でも、永遠にたいせつな一瞬。

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「たそがれ あるいは イル・ド・フランス」油彩 1937年 101.9×72.6cm
ルオーは、中期から後期にかけて、聖書の風景と呼ばれる宗教的風景画をたくさん描いたとのことですが、これもその中の一枚。イル・ド・フランス はルオーの生まれ故郷。
黄昏の頃のオレンジ色から藍色に変わっていく優しい光の中で、中央に寄り添う人々の穏やかな感情、愛情が伝わってきます。この画も一目で気に入ってしまいました。

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「優しい女」油彩 1939年 57.0×49.0cm
表情が、ブリヂストン美術館のぼくが大好きなピエロ(1925年)に似ていると思ったのですが・・・。
でも、部分部分は似ていても、全体の印象は全然違いますね。

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かたや優しそうな表情ですが、どこか軽薄、偽善的、表面的な感じ、ピエロは哀愁に満ちて静謐、穏やかさを感じます。ぼくはルオーの中ではこの画が一番好きです(これは今回の展覧会にはありませんブリヂストン美術館)。

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そして、今回の目玉の一つである「受難」passion。
当初の収集は54点、その後の収集でさらに増え、今回は64点が展示されています。本当に圧巻の一言に尽きます。これだけのコレクションを一同に、しかも我国で見ることができる幸福に感謝。

「受難1」油彩 1935年 39.5×27.8cm
挿絵本「受難」の表紙を飾ったもの。

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「受難30」"ここに、ひとつの世界が幕を下ろして消え失せ、別の世界が生まれる"油彩 1935年 10.0×20.0cm
ゴルゴダの丘の3本の十字架でしょうか。「受難」が出光美術館の収蔵となる経緯には(フランスでもなくアメリカでもなく)大変興味深いものがありますが、この画にもエピソードが。
かの川端康成がこの画の前で身動きもせず・・・、じっと見入っていたとか。「このルオーの代表作を何とか日本にとどめおくことはできないものか・・」。
ありがとうございます。先人達、皆さんのおかげで、こうしてわれわれは良い画をじっくりと鑑賞することができます。

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そして、もうひとつの連作、「ミセレーレ」58点。
「ミセレーレ」は「受難」が出光美術館収蔵となったことにより、ルオー家から美術館に寄贈されたものとのことです。
「物は物を呼ぶ」と出光佐三氏は良くおっしゃっていたそうですが、その通りとなったのですね。

「ミセレーレ58」"われらが癒されるのは彼が受けた傷によりてなり" 版画 1922年 57.9×47.2cm

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「ミセレーレ57」"死に至るまで、しかも十字架の死に至るまで従順なれば" 版画 1926年 58.2×42.3cm
「受難」もすばらしい連作ですが、ぼくは、こちらの版画の連作「ミセレーレ」に強く惹かれました。白と黒のだけの版画。
黒の濃淡で、白の使い方(残し方)で、これほどまでに表現できるものなのかと・・・、心情が表れるものかと・・・、この2点を見てしばし動けなくなりました。
出光佐三氏は、「受難」を買い取る時、画を評して、筆で描いた日本画のようだ」といわれたとのことですが、それに通じるものがあるかもしれません。

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「ミセレーレ23」"孤独者通り" 版画 1922年 36.0×50.5cm
ミセレーレの中に、ぼくの好きなブリヂストン美術館の「郊外のキリスト」1920-1924年に良く似た画を見つけました。
23番の孤独者通り。

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どちらも好きです。甲乙付けがたい。
また、ブリヂストンに見に行かなくてはと思いました。

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コローの展覧会に引き続き、このルオーの展覧会もすばらしいものでした。
「受難」と「ミセレーレ」の連作をあるだけ全部いっぺんに・・・、見れるのはすごいなと・・・。待ち合わせの時間があるので、1時間30分くらいで切り上げざるを得ませんでしたが、本当はもっと時間がいると思います。
じっくりと見たのは数点だけでしたから・・・。

また、特にミセレーレなどを鑑賞するには、もう一度新約の聖書を見ておいた方が良かったかとも思いました。ミセレーレだけではなく、ルオーの画はやはり宗教、キリスト教と切り離して鑑賞する訳にはいきません。
もちろん、人間として普遍的なものとして理解は十分できますが、新約の聖書を深く知っていると、味わい方が全然違うのかもしれないと。
旧約の方は、物語として面白いので何回か読んだことがありますが、新約はあまりない ^^;

ミセレーレを見て、さらに一段とルオーが好きになってしまった展覧会。
あの版画群は一見の価値あり、絶対にお勧めです。  ^^v

<2008/07/26 Idemitsu Museum & Georges Rouault>
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toshi

素晴らしい展覧会が開催されるんですね。私は、あまり絵の素養がないのですが、たまに美術館に行くことがあります。
by toshi (2008-07-27 17:30) 

bonheur

ぼるふがんぐさんは、絵画のご趣味が広くていらっしゃるのですね。
ルオーは、去年パリのポンピドゥ・センターでたくさん目にする機会がありました。(確か、一つの部屋にルオー作品が山ほど展示されていました) ルオー作品に囲まれると、ちょっと怖い感じがしました・・・。
私はまだ行ったことがないのですが、松下電工の汐留にある美術館にはルオーのコレクションがあるそうですね。
by bonheur (2008-07-27 17:50) 

エア

ざっとですが「23番の孤独者通り」
この版画が私は印象に残りました。
先日TVで放送してまして
ぼるふがんぐさんの解説と同じ宗教画的みたいな
説明でした。聖書、背景として頭に入れたいのですが
なかなか^^
素晴らしい記事で勉強というか一つ豊かになりました。
by エア (2008-07-27 20:40) 

どんぐり

暑い中 色々とお出かけしておりますね
うらやましいです、私は暑い夏をどうやり過ごすかで
一杯です、身体も疲労がたまり始めています
8月のお盆休みが休養になる感じです
しかし暑いです、黒いズボンに白い塩の結晶が
付いているのを始めて見ました、驚きです
by どんぐり (2008-07-27 21:33) 

vaio_7

!!えー!!そんなにすごい作品数が来ていたのですか?!
すごい!!知りませんでした!
ルオーいいですね。私も大好きです。
虚飾の無い、朴訥さ。力強さ。
色彩のない、白黒の作品のほうがより禁欲的で、キリスト教的精神性が滲み出ている気がしますね。
「受難」と「ミセレーレ」は見てみたいなぁ・・・。
by vaio_7 (2008-07-27 22:28) 

リュカ

やっぱり良いな~ルオー。
「たそがれ あるいは イル・ド・フランス」
この絵、絶対に本物を見たら引き込まれる色遣いだと思いました。
8/17 までなんですよね・・・
うーん、見に行きたい!!!予定を調整しなくちゃ(笑)

by リュカ (2008-07-28 10:02) 

ひろころ

非常に充実した展覧会だったのですねー。230点って凄い。
ルオーはじっくり観たことが無かったです。
人の絵より風景画的な物の方が私にはしっくり来ます。
ラスト2枚は良いですね☆ また美術館に行きたくなりました(・ー・)/
by ひろころ (2008-07-28 14:51) 

ユキ

いいですね~
受難・・・こういうの、スキです。
8/17までか・・・
by ユキ (2008-07-29 11:41) 

Balloon

展覧会ですか!
絵などには詳しくないのですが、どれも心に響くような作品ですね!
ほんと、背景にある宗教や文化などを知った上で鑑賞したらもっと
深く味わい深いものに感じるのでしょうね^^!
by Balloon (2008-07-29 15:06) 

ぼるふがんぐ

toshiさん、ぼくはルオー以前から好きなんです。
でも、受難とミセレーレには圧倒されました。ルオーすごい!!
by ぼるふがんぐ (2008-07-29 19:47) 

ぼるふがんぐ

bonheurさん、いいなぁ、本場でルオーご覧になったのですね。そうですね、確かに囲まれてしまうと、パワーに圧倒されるかもしれませんね。
ただ、ルオーにも静かな優しい穏やかな画もたくさんあります。機会があれば是非それらもご覧になってください。
ブリヂストンの2枚はとっても優しいと思うのですけれど。
by ぼるふがんぐ (2008-07-29 19:52) 

ぼるふがんぐ

エアさん、この版画はいいですよね。ぼくも好きです。同じ ^^v

聖書は以前に読んだのですが・・・、西洋絵画を見るにはもっと読み込まないとダメなのかもしれません。
たくさん、勉強することがありますよね ^^
by ぼるふがんぐ (2008-07-29 19:58) 

ぼるふがんぐ

どんぐり師匠、お仕事忙しそうですね。ほんとうに暑いので、水分と、それから塩分も適度に摂られて、体にご注意ください。
ぼくも、最近外に出ることが多いですが、歩いているだけで体力をかなり消耗しているのに気が付きます。

お盆休みは、どのように過ごされるのですか? ^^
by ぼるふがんぐ (2008-07-29 20:02) 

ぼるふがんぐ

vaio_7さん、これも見ていただきたいって思いましたよ。
連作をありったけ、これだけ見られるっていう機会は、あまりないかもしれません。フランスでなくわが国で見られるのですから、すごいなって思います。

ミセレーレ、良いですよね。禁欲的・・・、白黒ってそうなのかも!!
by ぼるふがんぐ (2008-07-29 20:04) 

ぼるふがんぐ

リュカさん、イル・ド・フランス、良い画でしょう ^^
ぼくも一目惚れしました。実際にはもっと深い色です。機会があれば・・・、そうでなくて機会を作って見て下さい。
ご覧になられてのリュカさんの感想、聞いてみたいです!!
by ぼるふがんぐ (2008-07-29 20:07) 

ぼるふがんぐ

ひろころさん、日本に、ルオーはかなりたくさんあるようですね。
日本人の心に響いてくるものがある画家さんなんですね、きっと!!
機会があれば、ここも、ブリヂストンも、汐留ものぞいてみてください。
お薦めはブリヂストンの2枚なんですが ^^
by ぼるふがんぐ (2008-07-29 20:10) 

ぼるふがんぐ

ユキさん、いいですよ ^^
8月17日までですけど、ここには常設展もありますし、ご覧になる機会はこれからもあるって思います。
ただ、連作をこれだけの規模で見られるのは・・・、どうかな?
やっぱり、この機会かな???
by ぼるふがんぐ (2008-07-29 20:12) 

ぼるふがんぐ

Balloonさん、そんなに詳しいわけではないですけど、ルオーは心に響いてくるものが・・・、たくさんあるのです。
今回、これだけの質と量の展覧会を見て、もっともっとルオーが好きになりました ^^
by ぼるふがんぐ (2008-07-29 20:13) 

cocoa051

心の余裕がないとなかなか行かれないところです。ゆっくりと眺めてみたいです。
by cocoa051 (2008-07-30 07:20) 

da-kura

私も右脳刺激したい!
by da-kura (2008-07-30 23:33) 

wikiwiki

ぼるふがんぐさんは、絵にも詳しくて、音楽もながーいタイトルよく覚えていて、いったいどんな脳みそをしてらっしゃるのかと思います。
深いな~ 素敵です!そういう人!
美術館・・・何年行ってないことやら。
by wikiwiki (2008-08-01 00:47) 

ぼるふがんぐ

cocoa051さん、そうですね。暇がないとダメなんですけど、休みは暇だけはあるので・・・、それに美術館は静かで、涼しい!! んです ^^;
by ぼるふがんぐ (2008-08-01 05:33) 

ぼるふがんぐ

da-kuraさん、しっかりと、刺激されてますよね(笑)。
by ぼるふがんぐ (2008-08-01 05:34) 

ぼるふがんぐ

wikiwkiさん、ぜんぜんそんなことないです・・・。
音楽も画も、ただ好きなだけで、好きなものしか知りません。従って、全体として、偏りがあります ^^;

たまには、涼しいところで数時間静かに過ごすのも良いですよ ^^v
by ぼるふがんぐ (2008-08-01 05:36) 

tomoe

出光美術館がそんなにルオーの作品を所蔵しているとは
知りませんでした。
見ごたえがありましたね~
色が暗めだったり、表情が淋しげだったりするけど、
なぜかルオーは優しく落ち着く感じがしますわ。
by tomoe (2008-08-07 19:04) 

ぼるふがんぐ

tomoさん、ぼくも知りませんでした。400点ですから、すっごいですよね @@;

ばっちり、見ごたえのある展覧会でした。ルオーも再認識です!!
by ぼるふがんぐ (2008-08-10 09:54) 

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